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本研究は、インターネットを介した匿名性の概念整理により、匿名性がもたらすデメリットを低減し、メリットを活用するための指針を示す研究である。
匿名性に関する研究は断片的かつ広範であるために、匿名性という言葉は多義的に扱われている。特に、わが国においてはインターネットにおける匿名性は犯罪の温床として危険視されてきた。一方、インターネットを介した情報交換において利用者は実名よりも匿名を利用する傾向がある。
本研究では、匿名性を本人到達性が失われた状態、すなわち個人を特定する基本四情報への到達性が無い状態と定義した。その上で、匿名性のもたらす効果および構成要素の概念を整理した。社会心理学の先行研究によれば、匿名性による社会的手がかりの減少から、偏見やステレオタイプが避けられ、自己開示が促進されるメリットが存在する。さらに、情報工学の先行研究や実装事例から、匿名性の程度を決定するリンク可能(不能)性という要素と匿名性のもたらす効果の対応性を整理した。
理論研究に基づく概念整理によって、匿名性を「本人到達性」「リンク可能(不能)性」という二つの軸を設定し、個人同士の情報交換が発生している事例を分析した。匿名であることが効果をもたらすであろうと考えられる事例として、事実婚・夫婦別姓という事例を選び、ケーススタディおよび記録分析を実施した結果、本人到達性が失われていても、効果的な情報交換が発生していること及びリンク可能性の効果およびシステムレイヤにおける本人到達性が情報交換を支えていることがわかった。この結果が、情報交換の当事者の数が多く、一般的な事例においてもみられることを検証するため、ダイエット食品クチコミを対象にアンケート調査を実施した。その結果、人間関係に基づく相手、すなわち本人到達性が満たされている状況ではインターネットを介した情報の発信抵抗は高い一方、文脈を共有している第三者に対する発信意向および発信された情報に対する信用が高いことが明らかになった。さらに、リンク可能な情報が一覧されるか否かによって、情報発信および受信の傾向が異なることが示唆された。
本研究の貢献は、インターネットを介した匿名性の概念整理および事例分析に基づく分類により、匿名性という言葉の持つ多義性を解消し、匿名性に対する理解と活用への道筋をつけたことである。インターネット上の匿名性は危険視される一方で、匿名性に対する誤解に基づく行動によってプライバシーの侵害や個人の特定といった問題を発生させる可能性があった。本研究が提示する匿名性の分類によって、匿名性を活用するためのサービス設計、およびユーザが安心しかつ安全に匿名性を活用するための道筋を示した。
キーワード:慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
MAUI Project
博士論文
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学位取得年度
2007年度 (2007年12月12日)
氏名
折田 明子 (ORITA, Akiko)
論文題目
インターネット上の情報交換における匿名性の効果に関する研究
論文要旨
1. 匿名性 2.リンク不能性 3. ステレオタイプ 4.オンラインコミュニケーション 5.プラットフォーム設計
連絡先
本文が必要な場合は下記までご連絡ください。
折田 明子 ( ako at sfc.wide.ad.jp )
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