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本研究は,アジア地域の大学を対象としたデジタル基盤を利用した遠隔教育アーキテクチャの提案を行い,各大学が自律的な役割を果たしつつ、教育・研究環境としての連結を実現した.本来自律的な大学における教育・研究環境が,本研究で提案するシステムにより連結され,国・文化・宗教などを越えた,新しい大学の空間を現状の大学環境へのオーバーレイ空間として実現した.本研究の目的は,大学間の研究・教育協力を実現し,グローバルな問題に取り組む素地となる,アジアにおける教育プラットフォームを実現することにある.本研究はそのシステムアーキテクチャをアジア地域の各大学で構築し,さまざまな運用・制度面での連結モデルを提案・実現することにより,地域を越えたスケールと,グローバルな空間への展開を実証した.
本研究では,1. 遠隔教育システム,2. 参加ガイドライン,3. オペレータ育成,の3つの構成要素からなる各大学の自律的な参加を可能とし,持続可能性のある遠隔教育アーキテクチャの提案を行った.
本研究で提案した遠隔教育システムは,リアルタイムの講義共有を地域に広がる複数大学と同時に行えるものである.本システムは,次の3項目を実現した.まず,大学によって存在するインターネット基盤の差異を,通信衛星を利用したリンクを追加的に大学に設置することで解決した.次に,マルチキャストアプリケーションを利用して複数大学での同時での講義共有を可能とした.また,提案した遠隔教育システムでの大学の役割をRelay Site,Primary Site,Receiving Siteというコンセプトに分けて明確に定義し,それぞれの大学に既存のインターネット基盤,機材,アプリケーションをでき得る限り利用できる設計とした.
協力ガイドラインは,各大学が参照することで大学の構築する機能や要求事項を理解可能とし,自律的な遠隔教育システムへの参加を可能とした.運営のためのガイドラインも整備し,大学間での公式な教育協力を可能とした.また,他の遠隔教育システムとのインターフェイスを定義することで,本研究で提案する遠隔教育システム以外のシステムとも教育リソースの共有を可能とした.
提案した遠隔教育システムを効果的,持続的に運営するため,技術力の高いオペレータを各地に配置し、自律的なサイト運営を行うことは必要不可欠である.本研究では,各サイトのオペレータを育成し,時宜を得た、効果的なオペレータ教育を実現するために広域分散型リアルタイム遠隔演習ワークショップの提案を行った.
本研究はアジア地域における6年に渡る実証実験により本論文で提唱するアーキテクチャの有効性と持続可能性を検証し、実際に自律的な大学の集合を構築することで,その効果を評価した.サイト構築の要求事項を明示することで多くの組織の連結が可能となった.Receiving Site は11カ国23大学の大学で構築され,Primary Siteは7カ国30サイトに構築された.Relay Siteは慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに構築された.協力ガイドラインの作成により,アーキテクチャ上で,大学間の自律的な教育協力が可能となり,2つの大学のみでの教育協力も実現可能となった.また,オペレータ育成により日々の教育協力が実現された.本環境を通して26の大学レベルのコース(243授業)が配信され,学会のリアルタイム配信やファカルティミーティングを含む68のリアルタイムセッションが行われた.これらの講義の内容は情報技術に限らず,農学,海洋工学,海洋科学,法学,土木工学,再生可能エネルギー,看護学,バイオ技術等多岐に渡った.これらの6年間の教育協力の結果,提案アーキテクチャの持続可能性が実証された.
本研究で提案した遠隔教育アーキテクチャは,実証実験を通して地域規模の問題に即時的・効果的に取り組むことが可能であると実証された.また,本研究で提案した遠隔教育システム以外との連携も行われており,地域規模の遠隔教育システムとの協力を進めることで,世界規模の教育協力体制が実現できる可能性も示唆された.本研究は,効果的・持続的な教育協力アーキテクチャを実現し,各大学が自律しながら連結して持続的に課題に取り組むためのプラットフォームを構築した.
キーワード:慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
MAUI Project
博士論文
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学位取得年度
2007年度(2008年3月23日)
氏名
三川 荘子 (MIKAWA, Shoko)
論文題目
インターネット環境を利用した自律的及び持続可能な大学間教育協力モデル
論文要旨
1. 高等教育,2. 自律的協力,3. 遠隔教育,4. 人材育成,5. 衛星通信,6. アジア
連絡先
本文が必要な場合は下記までご連絡ください。
三川 荘子 ( funya at sfc.wide.ad.jp )
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