慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
MAUI Project
博士論文

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学位取得年度 2005年度
氏名 タムリン, アフマド フスニ (Achmad Husni Thamrin)
論文題目 Global Multicast Network and Scaling Multicast Communications
(グローバルマルチキャストネットワーク構築とマルチキャスト通信の規模性の研究)
論文要旨 (内容の要旨)

本論文では、グローバルマルチキャストネットワークを構築し、大規模なマルチキャスト通信を実現するために、マルチキャストネットワークにおいてルータがパケットの転送状態を管理する際の問題、ならびにマルチキャスト通信において多数のフィードバックメッセージが一部のノードに集中する問題について論じる。これらの問題点の解決手法として、インターネットのバックボーンネットワークと地域や末端のネットワークとを片方向衛星回線で接続し、マルチキャストの通信路として用いる。その上で、二段階ランダムタイマとTracked Sender List(TSL) の二つの手法によって片方向衛星回線に送出されるフィードバックメッセージの数を最少化し、マルチキャスト通信の規模性を確保する。

IP マルチキャストのアーキテクチャでは、マルチキャストトラフィックの伝送経路にあるすべてのルータがパケットの転送状態をマルチキャストフローごとに保持し、管理する。このため、ネットワークでマルチキャストを利用可能にするにはルータへの負荷や運用コストの増大が懸念され、インターネット全体で利用可能なマルチキャスト基盤の展開やサービスの普及には至っていない。本研究では、地上系通信網を迂回するために片方向衛星回線を用いたグローバルマルチキャストネットワークを構築し、マルチキャストパケットの転送状態を管理しなければならないルータの数を低減させることを提案する。本提案では、インターネットのバックボーンネットワークを片方向衛星回線の送信ノード(UDL Feed)、地域ネットワークや末端ネットワークを受信ノード(UDL Receiver) として機能させ、UDL Feed からUDL Receiver に直接マルチキャストトラフィックを伝送する。このとき、片方向衛星回線を使用してネットワークを構築する際の送信ノードと受信ノードの構成について複数通りのシナリオを作成し、シミュレーションによって検証した。受信ノードの選択は、送信ノードへのネットワーク的な距離、および地理的な距離に依存する。本研究で提案したシナリオは片方向衛星回線に接続するすべてのAS に対して有益であることがわかった。

グローバルマルチキャストネットワークでは、多数のノードが参加する大規模なマルチキャストグループが形成されると想定でき、マルチキャスト通信における規模性の問題が生じる。多数のノードが参加するマルチキャストグループでは、単一のフィードバックメッセージのみが必要であり、そのメッセージは速やかに伝送されなければならない。このとき、マルチキャスト通信の規模性を確保するために、フィードバックメッセージの数を最少化する必要がある。本研究では、マルチキャスト受信ノードによるフィードバックメッセージの送出を抑制するためのランダムタイマを提案し、これを二段階ランダムタイマと呼ぶ。本手法はネットワークの推定遅延を考慮して確率密度関数を遷移させることで、既存の指数関数的な確率密度関数を用いた場合に比べ、より効率的にフィードバックメッセージを最少化でき、優れた性能を持つことを検証し示した。

本研究では、大規模なマルチキャスト通信を実現するもうひとつの手法として、各受信ノードが直近にフィードバックメッセージを送出した受信ノードを記録し、次にフィードバックメッセージを送出する際に、一部の限られた受信ノードを優先させる手法を提案した。本手法では、受信ノードはフィードバックメッセージの送出ノードをTSL と呼ばれるリストに記録して自律的に保持し、TSL に自分自身が存在するかどうかによって自分の送出抑制ランダムタイマの設定値を決定する。本研究では、TSL のメッセージ抑制性能を数学的検証とシミュレーションによって評価し、TSL が大半の受信ノードで高い有効性を持つことを示した。

本研究では、片方向衛星回線を用いたグローバルマルチキャストネットワークの構築、そして二段階ランダムタイマとTSL を用いたマルチキャスト通信の規模性確保を提案した。本研究により、インターネットにおけるグローバルなマルチキャストサービスの普及を支援し、放送型の広域通信メディアを介して展開される大規模アプリケーションの可能性を大幅に広げる基盤技術が構築できた。

連絡先 本文が必要な場合は下記までご連絡ください。
Achmad Husni Thamrin (husni@sfc.wide.ad.jp )


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