慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
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博士論文

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学位取得年度 1998年度
氏名 西田 佳史 (NISHIDA, Yoshifumi)
論文題目 広域自律分散型ネットワークにおける自律的な輻輳制御機構に関する研究
論文要旨 今日、広域コンピュータネットワークの担う役割は重要性を増し、 その規模は日々拡大を続けている。ネットワークに使用される通信回線、 ネットワークに接続される通信機器などの低コスト化により、ネットワークの 拡張にかかるコストは年々低くなりつつあるが、 それでも大陸間を接続するような長距離で大規模な ネットワークなどの場合には、その構築や維持、運用に膨大なコストがかかる。 このような背景から、最小のコストで最大のネットワーク資源を利用者に 提供するネットワーク技術が求められている。

ネットワーク資源の効率的な利用を実現する輻輳制御技術は、 広域ネットワークにおいて大きな役割を担っている。 インターネットのような広域自律分散型のネットワークでは、 通信を行う終端ノードによる自律的な輻輳制御機構が ネットワーク全体の輻輳制御システムの主体となる。 しかし、現在インターネットで利用されている TCP(Transmition Control Protocol)による輻輳制御技術は、 もともと地球規模のネットワークを想定したものではない。

現在の広域ネットワークをとりまく環境は、 インターネットの初期の状況から大きく変化している。 ネットワーク技術の発達によりネットワークの構成要素の高速化や多様化が 進むにつれ、現在の広域ネットワークの特性は非常に複雑化している。 また商用利用の発展により、広域ネットワークに対してより 高い信頼性が要求されている。

このような背景から、 本研究では広域ネットワークにおける自律的な輻輳制御技術として、 スムーズスロースタートアルゴリズムとパケットペアTCPの2つの手法の設計を行った。 設計した新しい輻輳制御技術をTCPに実装することにより、 既存の輻輳制御機構と下位互換性を持ち、従来の技術から段階的な移行を 可能にする通信アーキテクチャを実現した。

スムーズスロースタートアルゴリズムは、 オペレーティングシステムのタイマ割り込みルーチンを利用し、 TCPの通信の初期の立上り時に生じる輻輳を拡散させる技術である。 スムーズスロースタートの拡散アルゴリズムは、 典型的な乱数生成法の一つである線形合同法を応用している。 スムーズスロースタートアルゴリズムにより、高遅延ネットワークにおける 輻輳制御技術の問題を解決できる。

パケットペアTCPは、従来のTCPとパケットペア方式による 帯域推測機構を組み合わせることにより新しい輻輳制御を実現する技術である。 パケットペアTCPは、通信中にパケットペア方式を利用した帯域推測を行い、 その結果から輻輳制御の方策を決定する。 精度の高い帯域推測機構により、パケットペアTCPは 通信経路に適した転送レートを決定し、パケット喪失の少ない効率の良い通信 を実現できる。 また帯域推測機構により、データパケットが通過する通信経路と確認応答が通過する 通信経路が異なる非対称通信を検出できる。 パケットペアTCPは、非対称通信を行う場合には、 輻輳制御アルゴリズムを非対称通信に適したものに切替える。 この手法により、既存のTCPでは十分に適応できなかった、非対称通信においても 効率的な通信を行うことができる。

またパケットペアTCPでは、複数のコネクションが競合する場合に 資源の公平な利用を実現するために転送レートの決定アルゴリズムに R.Jainのアルゴリズムを応用した。 この手法により、複数のコネクションが競合する状況において、 コネクションが自律的に協調し、各コネクションのネットワーク資源の 消費量が均一になる点で通信の平衡状態に到達する機構を実現した。

本研究では、ネットワークシミュレータによるシミュレーションと 既存のオペレーティングシステムを用いた実測によって 2つの輻輳制御技術の解析を行った。 本研究の解析により、スムーズスロースタートは高遅延ネットワークにおいて 既存の輻輳制御技術に対し15%から40%程度の転送性能が向上することを検証した。 パケットペアTCPは、非対称通信において6から30%、対称通信において 4から10%の転送性能の向上があることを検証した。 そしてパケットペアTCPは転送性能を向上させるだけではなく、パケット喪失率を 4%から10%程度減少させ、ネットワーク資源より効率的に利用できることを検証した。

また近年研究が進められている輻輳制御技術あるTCPVegasとの性能比較において、 非対称通信時、ルータのキューバッファに余裕がない状況、複数のコネクションが 競合する状況において、本研究で実現した輻輳制御機構が優位に機能することを 検証した。

本研究の成果により、広域自律分散環境におけるネットワーク利用の性能が 向上し、次世代のインターネットの一層の発展が期待できる。

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ソニーコンピュータサイエンス研究所
西田佳史
nishida@csl.sony.co.jp



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