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本研究は,コンテナ型Network Function Virtualization(NFV)アーキテクチャを提案し,仮想マシン(VM)を利用したNFVの従来の実装では困難だった,可搬性とパケット処理性能の両立を実現した.
NFVとは,本来専用のハードウェアで実装されてきたネットワーク装置を,汎用的なハードウェアとソフトウェアによって仮想化されたネットワーク機能(VNF)に分離する技術体系である.この技術体系は多様化し複雑化するネットワークのトラフィックに対応するために,ネットワークの拡張性と柔軟性に関する課題を解決する技術として期待されている.一方で,インターネットにおけるアプリケーションの多様化に伴い,通信品質への要求が多様化した結果,その要求に最適化されたネットワークを動的に提供することを目指した「ネットワークスライシング」という概念が提唱されている.しかし,その実現にはNFV,Software Defined Networking(SDN),クラウドコンピューティングなど複数の技術を組み合わせて利用されることが想定されているが,具体的な実装方法は明らかにされていない.
本研究では,まず,ネットワークスライシングの実現に向けて,アプリケーションの要求に応じて動的にその構成要素を供給するPlatform as a Service(PaaS)の概念をネットワークに適用したネットワークサービスのPaaS化を提唱した.そして,その要件としてVNFの最適な配置を保証する「可搬性」が重要な要素であることを明らかにした.次に,ネットワークサービスのPaaS化の実現に向けた産学連携コンソーシアムを設立し,多くのベンダで独自に実現されている多様なNFV関連製品を共同的に検証し,VNFの可搬性とパケット処理性能を網羅的に評価した.さらに,その経験と知見に基づき,実運用としての大規模な実ネットワークの構築・運用の実証実験をおこない,その相互運用性と性能を評価した.その結果,VNFの動作環境にVMを前提とした従来のNFVでは,VNFの可搬性とパケット処理性能の両立に課題があることを明らかにした.
これらの評価と分析に基づいて,本研究では次に,可搬性とパケット処理性能を両立するコンテナ型NFVアーキテクチャを提案した.提案したアーキテクチャでは,VNFをコンテナ,すなわちOSにおけるプロセスの集合として扱い,VNFのネットワークI/OインターフェースをPOSIX APIで抽象化することで,高いレベルの相互運用性を実現し,VNFの可搬性を確保することができた.その結果,ボトルネックとなっていた汎用OSが持つカーネルのネットワークスタックをバイパスすることで,VNFのパケット処理性能を向上することが可能となった.更に,提案したコンテナ型NFVアーキテクチャの有用性を実証するため,VNFのネットワークI/OにNetmapを利用したプロセスとして実装した結果,要求される可搬性を担保した従来方式と比較して,VNFの種類に応じて約2から5.5倍のパケット処理性能を達成し,可搬性とパケット処理性能の両立を実証した.
本論文の研究は,ネットワークスライシングの概念の実現に向けた課題を明らかにし,その課題の解決のための具体的な方法を提示した.自動運転や遠隔医療をはじめとした高度で多様な通信品質を要求するさまざまなアプリケーションが共通のプラットフォーム上で実現できる道を切り拓いた.
キーワード: NFV,ネットワーク仮想化,通信事業者,インターネット
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
MAUI Project
博士論文
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学位取得年度
2019年度
氏名
堀場 勝広 (HORIBA, Katsuhiro)
論文題目
コンテナ型NFVアーキテクチャ
論文要旨
連絡先
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