慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
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博士論文

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学位取得年度 2019年度
氏名 土屋 高康 (TSUCHIYA, Takayasu)
論文題目 健康データによる利用者主導の価値創造モデルの開発と検証
論文要旨

近年、個人の健康に関するデータを利活用し、国民一人一人の自律的な健康維持を支援することは国家的な取り組みとなっている。インターネット空間には、個人による健康データ活用を支援する多様な情報処理アプリケーションサービスが存在し、サービスの利用者は自らの健康データを企業に提供することで、自らの嗜好に合った顧客価値を享受することが可能である。

しかし、国内シンクタンク*¹の調査によれば健康分野のアプリケーションサービスに対する国民の興味は低いだけでなく、少ない利用者の大半もデータ提供に対する対価を実感できていない。つまり、サービスの提供企業と顧客であるはずの利用者の間には価値概念の認識や価値創造の目的に相違がある。

顧客価値に関する既存研究では、顧客が知覚する価値を便益(benefit)と犠牲(sacrifices)に分類し、静的な状態要素で評価する手法が一般的である。しかし、価値の構成要素の定義に統一見解はなく、価値創造と利用者の行為との関係性や価値観が十分反映されていない状況が伺え、データドリブン社会に即した新たな価値評価のモデルが必要である。

そこで本研究では価値概念を利用者の視点から再考し、「価値を創造する」という人間を動的な行為の主体者として捉え直すことで、新しい価値評価モデルの開発と検証を行った。同モデルの開発は、情報処理モデルに関する既存理論を概観し、情報価値の創造に必要な人間の心的要素と行為を明確化した上でモデルを設計した。同モデルは、Intention(意図を持つ)、Generate(データを生産する)、Record(記録する)、Perceive(知覚する)、Act(行動する)を構成要素として構造化していることから、IGRPA(評価モデル)と称している。IGRPAは、価値を静的な状態次元で評価せず、人間の心的要素と行為の次元で測ることから、人間の情報処理行動と情報アプリケーションサービスの関係性が明確である点に特徴がある。

同モデルの検証は二つの異なる方法で行っている。一つは、健康分野のアプリケーションサービスの評価情報(ユーザーレビュー)を統計解析することで利用者が知覚している価値の具体例を抽出し、抽出した価値構造とIGRPAとの整合性を検証している。その結果、価値創造には利用者の主観的価値観と4つの行為が不可欠であることが確認された。

二つ目の検証は、健康分野のアプリケーションサービスの利用者(約4,800人)に質問調査を実施し、IGRPAの各構成概念をスコア化した350人分の実データを二つのサンプル群に分けて共

分散構造解析を行った。適合度指標のGFIとAGFIでは、両サンプル群の全ての分析結果で0.93以上の数値が得られ、5つの構成要素(Intention、Generate、Record、Perceive、Action)で利用者の価値を評価するモデル(IGRPA)の有効性が確認された。

本研究の実務的貢献は、人々の健康データ活用による健康維持・増進を支援する情報アプリケーションの新しい評価方法を明示することで、持続的な人間社会の価値創出に寄与することである。

更に、本研究が示したIGRPA(価値創造モデル)は、人間が主導する価値創造の理論的な指針として、企業や自治体がインターネット技術により人間をどのように支援すべきかを検討する際、顧客価値の評価方法としての発展性がある。

*1 :三菱UFJコンサルティング㈱の調査(2017年)

キーワード:健康、情報処理モデル、競争戦略、価値創造、共通価値

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